池尻大橋という街には、派手な観光地でも、巨大な商業施設があるわけでもないのに、三宿という隠れ家的な存在の街が近かったり、何かと人を惹きつける魅力がある。
渋谷から東急田園都市線でたった1駅という近さにありながら、都会の喧騒は少しだけ、ほんの少しだけなくなっており、静かに散歩するにも、おいしいものを探すにもぴったりな場所だ。
そんな池尻大橋にあるラーメン店「千乃鶴」は、instagramで人気のラーメン店に挙げられるなど、ラーメン好きな人間の間でじわじわと名が知られ、今や行列必至の人気店となっている。今回は、そんな話題の店のつけ麺を食べに、実際に足を運んでみた。

店の場所は、駅から歩いて5分ほど。幹線道路から少し入った、住宅と小さなお店が混ざり合う通り沿いにある。目立つ看板があるわけではなく、どちらかというと控えめな外観。それでも店の前にはすでに数人の列ができていた。
私が並び始めたのは12時15分。週末のお昼時ということもあって、行列はどんどん長くなっていく。並んでいる人たちは、20代から30代くらいの比較的若い男女が多く、カップルや友人同士で来ている人が目立った。instagramという比較的若い人の利用が多いSNS利用の影響だろうか。
みんな何かしら「食」に関心を持っていそうな雰囲気で、スマホで店の情報を確認していたり、写真を撮っていたり。池尻大橋という場所柄もあってか、どこか感度の高い層に人気があるのが感じられる。
店に入れたのは13時ちょうど。およそ45分の待ち時間だった。
いよいよ入店。中はカウンターがメインのこぢんまりとした造りで、木を基調とした落ち着いた空間。食券を購入後、背もたれのない丸い椅子に座って案内されるのを待つ。その間も外には長い行列が続々と出来上がっていた。
厨房では店主がときおり「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」など来店客に声をかけながら、麺を茹で、冷水で締め、盛り付けまで一つ一つ丁寧にこなしている。メニューには中華そばもあったが、やはり初来店ということで、一番人気の「鰹昆布水つけ麺」を選択。麺量は250gと300gから選べたので、腹が減っていたこともあり300gから選択。

しばらくして提供されたつけ麺は、見るからに美しく丁寧な盛り付け。つややかな中太麺、香ばしい香りを立てるあっさりとした中でコクのあるつけ汁。

カウンターのテーブルに置かれた、「美味しい食べ方の指南書」。これを元に食べ進めることにした。

まずは、何もつけずに麺を一口。昆布で締められた麺はそのまま食べても食べれるかと思いきや、やっぱりつけ汁につけたほうが美味しいや。麺の食感はしっかりとしたコシと滑らかな舌触りが印象的で、小麦の香りが口の中にふわっと広がる。これだけでレベルの高さが伝わってくる。一言で言うと「モチモチ」。
まるで、二郎系、豚星のような麺の太さである。

カボスを絞ると、爽やかさがアップ。昆布の甘さに柑橘系の酸味が合わさると、よりおいしさを感じる。でもやっぱりつけ汁につけたほうが美味しいや。
次に、つけ汁に麺をくぐらせて食べると、ガツンと来る旨味の層に驚く。つけ麺の中では、どちらかと言うとさっぱり目な味付けではある。ややとろみのあるスープが麺によく絡み、噛むたびに奥行きのある味わいが口に広がる。塩味の加減も絶妙で、最後まで飽きが来ない。
「千の鶴」は、ただの人気店ではなく、味・雰囲気・サービスのすべてにおいて丁寧さが感じられるお店だった。店主の仕事ぶりや接客、空間づくりにも一切の妥協がなく、食べる体験そのものが心地よい。食べ終わったあとに「ああ、また来たいな」と自然と思える、そんな数少ない店だと思う。
池尻大橋に行く理由が一つ増えた気がする。今度は塩ラーメンも試してみたい。街の静けさと、店の落ち着き、そして心まで満たされるようなつけ麺の味。そのすべてが揃った「千の鶴」での体験は、確かに忘れられない一杯となった。
ちなみに、instagramで1番人気のメニューは釜玉油そばである。こちらは、夜限定なのご注意を。
お店の情報は以下のとおり。
店名:中華そば 千乃鶏、住所:東京都世田谷区池尻2-36-11、営業時間:平日は11:00 – 15:00、17:30 – 22:00、休日は11:00 – 22:00

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